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横浜地方裁判所 昭和42年(行ウ)29号 判決

横浜市鶴見区矢向町三三五番地

原告

株式会社堀製作所

右代表者代表取締役

堀勝治

横浜市鶴見区鶴見町一、〇七一番地

被告

鶴見税務署長

右指定代理人

白井文彦

大道友彦

伊藤真

岡崎栄

野崎悦宏

西園隆俊

帯谷政治

右当事者間の昭和四二年(行ウ)第二九号所得税及加算税決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

(原告)

被告が原告に対し、昭和四一年一〇月二一日付でなした原告の源泉徴収および加算税に関する決定は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(被告)

主文同旨

の判決を求める。

第二原告の請求の原因

一、被告は昭和四一年一〇月二一日付で源泉徴収所得税本税三一万九、七六三円、同加算税三万一、九〇〇円を決定し原告は昭和四一年一〇月二三日その通知を受けた。

二、原告は右決定に不服があつたので、昭和四一年一一月二一日、被告に対し異議申立をしたところ、被告はこれについて決定せず、昭和四二年二月二三日国税通則法八〇条一項により審査請求したものとみなし、東京国税局長に送付し、同局長は右請求に対し昭和四二年六月二六日付で審査請求を棄却する旨裁決した。

三、ところで第一項記載の決定(以下本件決定という)は以下述べるような理由で取消さるべきである。すなわち、

(一)  本件決定は、原告が昭和四〇年一〇月一五日付でなした昭和三七年一〇月一日から昭和三八年九月三〇日までの事業年度の法人税の審査請求に対する昭和四一年九月二八日付東京国税局長から原告宛裁決書の裁決の理由に基づくものというのであるが原告の右昭和四〇年一〇月一五日付審査請求は原告が堀勝治から支払を受けた借地権代七五万円につきその帰属年度を問題としたにすぎなかつたにもかゝわらず、東京国税局長の裁決は原告の右審査請求の目的を逸脱し、原、被告双方とも問題としていなかつた借地権代の当店という新たな問題を提起し、しかも事実の認定を誤つて借地権代を一二〇万二、五〇〇円に変更増額しているのであるから、右昭和四一年九月二八日付裁決は事実を変更して原処分以上に審査請求人の申立を不利益に変更したものとして、行政不服審査法四〇条五項但書の規定に反する違法処分であり、従つて、右違法処分であり、従つて、右違法な裁決の理由をその理由としてなされたとみられる本件決定もまた違法処分として無効なものというべきである。

(二)  本件決定は原告がその役員である堀勝治に昭和三七年四月四日借地権を無償で譲渡し、その借地権代に相当する金額一二〇万二、五〇〇円を同人に対する賞与であると認定していたが、原告は昭和二五年一二月二八日日本燃化機製造株式会社に横浜市鶴見区矢向町五七番地(旧矢向町五三二番地)の土地「一〇〇坪」(「三三〇平方メートル」、以下本件土地という)のうち西側部分五〇坪の地上に存在する木造二階建一棟(延面積三三、〇五坪、以下甲建物という)を代物弁済として譲渡する際その敷地の借地権もともに同会社に譲渡したのであるから、原告が堀勝治に借地権を譲渡することはありえない。たゞ原告は借地権譲渡後も借地人の名義を変更せず借地料を支払つたことになつており借地権者とみられたため、これを解決する意味合で昭和三九年四月二〇日堀勝治が日本燃化機製造株式会社から甲建物を買受けた際原告は堀勝治に借地権を譲渡したものとし借地権代七五万円を譲渡益として計上したのである。

これを要するに、本件借地権については原告は単なる名義人であつたにすぎないから、これに関し課税上問題があるとすれば、旧法人税法七条の三の規定(実質課税の原則)により処理さるべきである。建物譲渡後の昭和二五年一二月以来本件借地権によつて原告は全く利益を享受しておらず実質的に利益を得ていたものは地上建物の所有者である日本燃化機製造株式会社であると解すべく、もし建物の売買によりその借地権を無償にあるいは低額に譲渡したというならばそれは原告でなく右日本燃化機である。

かりに、日本燃化機が当初借地権を有しなかつたとしても、同会社は昭和二五年一二月以来平穏かつ公然に自己のためにこれを利用して来たものであるから既に取得時効により右借地権を取得したものというべきである。

(三)  かりに原告が借地権を有し、これを日本燃化機に転貸していたものとすれば、この場合その借地権の価額から転借権の価額を控除した額によるべきであり、しからざれば借地権評価に関する基本通達にも反し、社会通念にもそわない扱いとなるというべきである。

堀勝治が建物を買受けるに当り要した所得権移転登録免許税、不動産取得税、所有権移転登記費用、仲介手数料その他で堀勝治が昭和三九年分譲所得税申告の際被告において容認した金額は総額四二万三、二〇〇円あり、またこの外堀勝治が本件取引によつて受くべき適正利潤も計算さるべきで(この利益は売却代金二五〇万円に含まれていると見られる)、被告の示した計算方式により算出すれば次のとおりである。

売却代 建物買入代 指数 堀が原告に払つた金額 建物取得に要した費用 適正利潤 地代

〈省略〉

すなわち四〇万四、三五〇円が無償譲渡による認定賞与ということになる。

なお、被告の引用する還元率は甲建物の所在地が住宅地(横浜市指定)内にあることからみて不適当であり、この場合の還元率は土地価格指数表の「住宅地」欄の〈省略〉の率によるべきである。

(四)  さらに、本件決定には次のような違法がある。

1 被告は昭和四二年七月一四日付東京国税局長の裁決理由において原告が堀勝治に二〇万二、五〇〇円の認定賞与を支給したいと決定しているが、その時期がいつか不明であり、右決定は、原告に通知されていないから徴税義務は発生しない。

2 東京国税局長の右裁決の理由には、昭和二五年の原告と日本燃化との間の売買契約は買戻条件付であつたとしているけれども、被告は右買戻の特約付との主張を撤回している以上、右主張は裁決理由に矛盾し、ひいては国税局長の裁決の理由を理由とした本件処分は取消さるべきである。

3 被告の本件決定の通知には、その理由は勿論税額算定の基本である課税標準の記載もない。たゞ源泉所得税三一万九、七六三円源泉徴収加算税三万一、九〇〇円計三五万一、六六三円を徴収賦課しますとあるだけであり、これでは税金を納める理由がわからない。かゝる通知だけでは納税者を拘束する効力がない。

4 本件のような課税標準である給与の金額の確定しない場合は当該法人税を更正することによりはじめて当該法人は所得税法三八条(昭和三七年四月四日当時の)規定する徴収および納付の義務を負うものと解すべきである。しかるに本件においては法人税の更正処分がなされていないからこれを前提とする所得税の徴収もできないものといわなければならない。殊に被告は昭和四〇年六月二八日原告の同三七年一〇月から同三八年九月までの法人税の更正決定において借地権代を七五万円に評価して更正したのであるからこれを一二〇万二、五〇〇円に変更するには国税通則法二六条の規定により再更正を要するのである。

これを要するに、本件決定は法の適用ないし手続上に重大な誤りがあり無効である。

第三被告の答弁および主張

(請求の原因に対する答弁)

一、請求の原因第一、二項の事実は認める。

二、同第三項は争う。

国税局長の裁決が、異議決定を経た後の処分または更正決定等の処分と比べて利益であるか、不利益であるかの基準は不服申立が課税標準または税額に関するものである場合には、異議決定を経た後の処分または更正決定等の処分以上に最終納税額を増額するときは不利益となり、反対に最終納税額を減額するときは、利益となるものである。

ところで、原告の昭和三七年一〇月一日から昭和三八年九月三〇日までの事業年度の法人税の審査請求に対する昭和四一年九月二八日付裁決は異議決定後の処分について課税標準を七五万円、最終納税額を二六万四、五〇〇円減額したものであり、これが不利益処分に当らないことは明らかである。

また、法人税に対する更正処分と源泉所得税の納税告知分とはそれぞれ別個の独立した処分である。

したがつて、源泉所得税の徴収義務は法人税に対する更正処分の有無にかゝわらず、所得税法の源泉徴収義務に関するそれぞれの規定に該当することにより発生するものであり、本件の場合は本件借地権価額一二〇万二、五〇〇円は、昭和三七年四月四日原告が堀勝治に賞与として支給したものであぬところ、原告はこれに対する所得税の源泉徴収義務を履行しないで、所得税法二二一条に該当し、国税通則法三六条に基づいて昭和四一年一〇月二一日付で本件納税告知処分を行なつたもので、なんら違法な点はない。

(主張)

一、原告は、森田鹿蔵と同人所有の本件土地について昭和二〇年二月一日から二〇年間の契約で賃貸借契約を締結し、本件土地一〇〇坪のうち西側部分五〇坪の地上に甲建物および残り五〇坪の地上に木造二階建一棟(延面積三七・二五坪、以下乙建物という)の建物を建てこれを所有していた。

二、原告は、昭和二五年一二月二八日日本燃化機製造株式会社(昭和三七年七月三日横山工業株式会社に吸収合併された)に甲建物を、同社に対して負担していた買掛金債務の弁済に代えて譲渡したが同建物の敷地部分の土地については、原告は日本燃化機製造に転貸することとし、原告において、なお借地権を保有し、森田鹿蔵に対する地代の支払等は右建物の譲渡以後も従来と同様に賃借人として原告が行なつていた。

三、昭和三七年初旬ころ、原告の代表者である堀勝治は、本件土地の隣接地において事業を営んでいる小清水実から、その事業を拡張するため、甲、乙両建物を買受けることにより本件土地の借地権を取得したい意図をもつていることを洩らされたので、本件土地の借地権を右小清水実に譲渡することとし、その前提としてまず日本燃化機製造と交渉し、同年四月四日同社から堀勝治個人名義をもつて甲建物を代金二〇万円で買受けた。

四、その後、昭和三八年五月六日堀勝治は甲建物を代金二五〇万円で、また原告は乙建物を代金二一九万円で小清水に対し売渡し、翌七日小清水は森田鹿蔵に借地人の名義書換料として金四一万円を支払い、本件土地につき同人との間に賃貸借契約を締結し、甲建物については昭和三九年五月一五日、乙建物については昭和三八年九月二六日それぞれ所有権移転登記手続を了した。

五、右のとおり、原告は昭和一九年ころ森田鹿蔵から本件土地を借り受けて以来これに対する借地権を有しており、甲建物を日本燃化機から買受けたのは本件土地の借地権を小清水に譲渡するための前提行為として行なわれたもので、通常このような場合、借地権者である原告が甲建物の買主となるべきところ、原告の代表者堀勝治個人が買主となりまた、堀勝治が小清水に甲建物を売却した代金のうちにはその敷地部分の借地権の譲渡に対する対価が含まれていると認められる事情のもとにおいては、堀勝治が日本燃化機製造から甲建物を買受けたときに原告からその敷地部分の借地権を無償で譲り受けたものと解するのが相当である。

六、そこで、被告は、昭和三七年四月四日原告が堀勝治に借地権を無償譲渡したことをもつて、その借地権価額相当額の賞与を支給したものと認定すべきところ、昭和三九年五月三〇日堀勝治が、原告に昭和二六年一月から同三七年三月まで原告が甲建物の敷地に対する地代を支払つたことに対する補償金ということで七五万円支払つており、また原告が昭和三七年四月から昭和三八年一二月までの地代一万三、六五〇円を堀勝治に代つて支払つているので、これを原告および堀勝治に有利に解して考慮し(本来税務上考慮する必要はないものである)、次のとおり計算した金額をもつて賞与を支給したものと認定したうえで、本件納税告知を行なつたものである。

(一) 借地権の価額

堀勝治が小清水に甲建物を売却した代金二五〇万円から堀勝治が日本燃化機製造に支払つた建物の代金二〇万円を控除した金額二三〇万円が昭和三八年五月の借地権価額となるので、昭和三七年四月における借地権価額は右金額に土地価額指数の比〈省略〉で還元した金額一九三万八、九〇〇円と評価した。

(二) 認定賞与額

借地権価額一九三万八、九〇〇円から昭和三九年五月三〇日堀勝治が前記地代補償額として支払つた七五万円を控除し、原告が堀勝治に代つて支払つた地代一万三、六五〇円を加えた金額一二〇万二、五〇〇円(一〇〇円未満切捨)をもつて賞与とした。

七、以上のとおりであるから、被告の源泉所得税の納入告知処分および加算税の賦課決定処分は相当であり、原告のこれが取消を求める本訴請求は棄却さるべきである。

第四被告の主張に対する原告の認否および主張

一、被告の主張第一項は認める。

二、同第二項のうち昭和二五年一二月二八日日本燃化機製造株式会社に甲建物を、債務の弁済に代えて譲渡したとの点は認めるが、その余は否認する。

本件土地の借地権は建物の譲渡とともに譲受人に移転し建物と分離しては存在しない。たゞ当時借地人の名義を書替えることを放置したまでのことで被告の主張するように原告が借地権を保有し、日本燃化機に転貸したものではない。

したがつて、借地料の支払も日本燃化機が原告を通じて地主に支払つていたものである。

三、同第三項は否認する。

四、同第四項は否認する。

昭和三八年五月当時甲建物は横山工業の所有であつたから同会社を除外して原告ないし堀勝治、小清水実と地主森田鹿蔵との間において本件建物に関する売買代金、借地権の譲渡に伴う名義書換料等について話合をしても後日堀勝治が建物を確実に入手した場合に備えるためのもので、確定的取引とは思われない。

森田と小清水間の名義書替云々も、森田は昭和三八年一二月まで当該敷地の借地料を原告に請求し受取つているから、これも後日に備えての予約的なものにすぎない。

五、同第五項は否認する。

日本燃化機製造所有の本件土地所在の甲建物を堀勝治が昭和三七年四月四日代金二〇万円で買受けることに口頭で契約し、同日手付金一〇万円を右売渡人に交付したところがこの契約を履行しないうちに昭和三七年七月三日同社は横山工業に合併され、次いで右建物は昭和三八年三月二七日同社に所有権が移転した。かゝる経緯を経て買受人である堀勝治が代金二〇万円を支払い(昭和三九年四月二〇日)所有権移転登記を終えたのは昭和三九年四月二二日である。昭和三八年五月に小清水との取引の行なわれる筈がない。

六、同第六項は争う。

第五証拠関係

原告は甲第一号証、同第二、三号証の各一、二、同第四ないし第一一号証を提出し、原告代表者堀勝治本人尋問の結果を援用し乙第一号証は不知その余の乙号各証の成立はいずれも認めると述べ

被告は、乙第一号証、同第二号証の一、二、同第三ないし第六号証を提出し、証人日下良信、同尾崎城平の援用し甲第一〇号証は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認めると述べた。

理由

一、被告が昭和四一年一〇月二一日付で源泉徴収所得税三一万九、七六三円の徴収決定同加算税三万一、九〇〇円の賦課決定をそれぞれなし、原告は昭和四一年一〇月二三日その通知を受けたこと、原告が右決定に不服があつたので昭和四一年一一月二一日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は昭和四二年二月二三日審査請求したものとみなし、東京国税局長に送付し、同局長は昭和四二年六月二六日右審査請求を棄却する旨裁決したことは当事者間に争いがない。

二、原告は、自己のなした昭和三七年一〇月一日から昭和三八年九月三〇日までの事業年度の法人税についての審査請求に対する東京国税局長の昭和四一年九月二八日付裁決は行政不服審査法四〇条五項但書(不利益変更の禁止)に反し違法であり、従つて、右裁決の理由をその理由とする本件決定もやはり違法であると主張するので考えてみるに、成立に争いのない甲第二、三号証の各一、二証人尾崎城平の証言および弁論の全趣旨によれば、原告は昭和四〇年一〇月一五日付で、借地権代七五万円の帰属年度は昭和三八年一〇月一日から同三九年九月三〇日までの事業年度であると東京国税局長に審査請求したのに対して、同局長はこれに対する裁決の理由中に原告は昭和三六年一〇月一日から昭和三七年九月三〇日までの事業年度において代表者堀勝治に一二〇万二、五〇〇円を贈与したと認定し、結論としては右七五万円を右事業年度に組み入れた原処分をこの点で不当として一部取消していることが認められているのであつて、以上よりすれば、右裁決は結論において何ら申立の趣旨を逸脱したり、原処分を不利益に変更したものとはいえず、従つて、右裁決の違法であることを前提とする原告の本主張は失当というべきである。

三、次に、原告は本件決定が堀勝治に借地権を無償で譲渡したと認定したのは不当であると抗争するのでこの点について検討する。

(一)  原告が森田鹿蔵と同人所有の横浜市鶴見区矢向町五七番地の土地一〇〇坪について昭和二〇年二月一日から二〇年間の契約で賃貸借契約を締結し、右一〇〇坪のうち五〇坪の地上に甲建物、残り五〇坪の地上に乙建物を建てたこと、および原告が昭和二五年一二月二八日日本燃化機製造株式会社(昭和三七年七月三日横山工業株式会社に吸収合併された)に甲建物を債務の弁済にかえて譲渡したことはいずれも当事者間に争いがない。

(二)  いずれも成立に争いのない甲第三号証の一、二、同第四、五号証、同第七、八号証、乙第一号証、同第三、四号証に、証人尾崎城平、同日下良信の各証言、原告代表者堀勝治本人尋問(一部)の結果を総合すれば前記のとおり昭和二五年一二月に原告は甲建物を日本燃化機に譲渡したのであるが、地代は、従来どおり原告が地主の森田鹿蔵に支払い、日本燃化機では従業員の宿舎として右建物を利用し、敷地の使用料は右建物に居住していた従業員が月々まとめて、原告に支払つてきたこと、その後、昭和三七年四月四日、原告代表者堀勝治は個人として二〇万円で甲建物を買い受けることを日本燃化機と約し、同月一〇日内金として一〇万円を支払い、その後、昭和三九年四月二〇日残代金一〇万円を支払い同月二二日堀勝治へ所有権移転登記をなしたが、これより先小清水実は堀勝治と甲建物譲り受の活し合いを進め昭和三七年六月ころから既に(有)小清水商店の従業員を入居させ、昭和三八年五月六日堀勝治は正式に甲建物を代金二五〇万円でまた原告は乙建物を代金二一九万円で小清水実に売渡し、翌五月七日小清水は森田鹿蔵に名義書換料として金四一万円を支払い本件土地につき同人との間に賃貸借契約を締結し、甲建物については昭和三九年五月一五日、乙建物については昭和三八年九月二六日それぞれ所有権移転登記手続を了したこと

以上の事実が認められ原告代表者堀勝治本人尋問の結果のうちこれに反する部分は信用できず、その他右認定を覆すに足る証拠は見当たらない。

(三)  しかして、以上(一)(二)の事実を併せ考えると原告は昭和二〇年森田から本件土地を借り受けて以来これが借地権を保有し、甲建物を日本燃化機に譲渡した後も、右建物の敷地に対する借地権は原告が引き続き保持していたと見られ、堀勝治個人が甲建物を日本燃化機から買受けたのは本件土地の借地権を小清水に譲渡するための前提行為として行なわれたもので、堀勝治が小清水に甲建物を売渡した代金のうちにはその敷地の借地権譲渡に対する対価が含まれていると解され、してみれば、堀勝治が日本燃化機から甲建物を買受けた昭和三七年四月四日の時点において、原告から右借地権を無償で譲り受けたものと解するのが相当である。

(四)  原告はさらに日本燃化機が借地権を時効により取得した旨主張するけれども原告が右時効を援用し得る者とはいえないから右主張も、理由がない。

(五)  そこで、まず、原告が堀勝治に無償譲渡したと見られる借地権の価格はいくらかというに、堀勝治が小清水に甲建物を売却した代金二五〇万円から堀勝治が日本燃化機に支払つた建物の代金二〇万円を控除した二三〇万円が昭和三八年五月の借地権価格となるので、昭和三七年四月段階における借地権価額は右金額に成立に争いのない乙第二号証の一により認められる用途地域別平均土地価格指数の比〈省略〉で還元した一九三万八、九〇〇円と評価され原告は住宅地平均土地価格指数の比〈省略〉で還元すべき旨主張するが、本件土地が住宅地であることの証明のない本件においてはただちに右主張を採用することはできない。

ところで前記各証拠によれば、昭和三九年五月三〇日堀勝治が原告に昭和三七年三月までの地代を自己が負担すべきものとして金七五万円を支払つていることまた原告は昭和三七年四月から昭和三八年一二月までの地代一万三、六五〇円を堀勝治に代つて支払つていることがそれぞれ認められ、これを原告および被告に有利に解釈すれば、右一九三万八、九〇〇円から右七五万円を控除し、原告が、堀勝治に代つて支払つた右一万三、六五〇円を加えた金額一二〇万二、五〇〇円(一〇〇円未満切捨)を借地権の価額と認めるのは相当である。原告は右金額は四〇万四、三五〇円にしかすぎないと主張し堀勝治が建物買受に当り要した諸費用を控除すべきであるというが、これらは甲建物を取得するために支出した費用であつて、原告が譲渡した借地権の価額から控除すべき費用ではなくまた堀勝治の受けるべき適正利潤も控除さるべきである旨主張するも右利潤こそまさに課税対象とされるべきであるから控除の要なく、さらに原告は転借権の価額を控除すべき旨主張するが、その具体的金額の点についての立証がないので採用することはできない。

そうすると原告のこの点に関する主張も理由がない。

四、原告はその他いくつかの主張をなして本件決定を論難するので進んでこれらの主張について検討を加えてみるに、

(一)  まず第一に原告が堀勝治に一二〇万二、五〇〇円の賞与支給を決定した時期が不明であり右決定の通知もないというけれども、後者の点は、これがなされたことは原告自身既に認めていることであり、前者についてはこれが明示は徴税手続上何ら要求されていないというべきであり、第二に、被告本件決定は東京国税局長の裁決の理由と矛盾すると主張するけれども、本件決定の適否は裁決の理由とは別個に考えられるからこの点の主張も理由がなく、第三に、本件決定の通知書には不備がある旨主張するけれども、以上の主張はいずれもこれをもつて本件決定を違法とするものとは解されない。そして、前記のとおり、被告が原告は昭和三七年四月四日に借地権代として一二〇万二、五〇〇円の賞与を支給したものと認定して、昭和四一年一〇月二一日これに基づき本件決定ならびにその通知をなしているものであつて、その手続においてとくにその効力に消ちようを来すような違法は認められず、原告の主張はそれ自体としていずれも理由ありとはいえない。

(二)  次に、原告は、法人税の更正処分をなすことが先決であると主張するけれども、法人税に対する更正処分等と源泉所得税の納税告知処分とはそれぞれ別個独立した処分であり、源泉所得税の徴収義務は法人税に対する更正処分の有無にかゝわらず所得税の源泉徴収義務に関するそれぞれの規定に該当することにより発生するものであり、本件の場合は本件借地権価額一二〇万二、五〇〇円は昭和三七年四月四日原告が堀勝治に賞与として支給したものであるところ、原告はこれに対する所得税の源泉徴収義務を履行しないで、所得税法二二一条に該当し、国税通則法三六条に基づいて昭和四一年一〇月二一日付本件納税告知を行なつたものであるとの被告の主張は正当であつて何ら違法と目される点は存しない。

(三)  さらに原告は法人税の更正において借地権代を七五万円に評価して更正したのであればこれを一二〇万二、五〇〇円に変更するには再更正を要する旨主張するが、本件決定とは別個の問題であつて、主張自体失当である。

五、以上のとおり、原告の本件決定に関する手続上、実体上の主張はすべて理由がなく、右決定は相当な処分というべきであるから原告のこれが取消を求める本訴請求は棄却さるべきであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大島斐雄 裁判官 田中弘 裁判官 東條宏)

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